焦点距離35mmのレンズは難しい
「焦点距離35mmのレンズって撮るのが難しい、普通過ぎてどう撮っても平凡な絵になっちゃう。どうやって撮ればいいんだろう?」
こういった疑問に答えます。
本日取り上げる35mmレンズの特性を知ることで、あなたの写真に変化が現れるかもしれません。
この記事を書いている私は、過去に多種多様のカメラ数十台を使ってきました。
デジタルカメラだけでなくフィルムカメラも10台以上使った経験があります。
35mmは私の準標準レンズ
写真を趣味や職業にしている人には好きな(得意な)レンズの焦点距離があると思います。
私はフィルムカメラ時代にCONTAX S2b+Planar 50mm F1.4とLeica 3f+Summicron 35mm F2.0(8枚玉)をメインに使っていたので、1番好きな焦点距離は50mm その次に35mmです。
理由は単に使い慣れているからです。
その前は超広角の17mmぐらいの焦点距離が好きで、35mm 50mmは苦手な焦点距離でした。
でも「写真学校ではまず50mm単焦点レンズで勉強をさせている」とことを知り、自分の写真の腕を上げたくてメインを50mm、サブで35mmを使ってきました。
するといつのまにかその2つの焦点距離が好きになったのです。
よって私にとって標準レンズは50mm、準標準レンズは35mmとなりました。
正直35mmの焦点距離は苦手
「私の準標準レンズは35mm」と言っておきながら、正直35mmの焦点距離は苦手です。
「撮りやすい」,「扱いやすい」とは思っていますが、スナップ撮影を終えた後に見返してみると「つまらない写真を撮った」と思えることが多いのです。
いわゆる歩留まりが悪いというやつですな。
理由は分かっていますが、なかなか克服出来ません。
50mmの撮り方は理解しているつもり
スナップ写真は、焦点距離に関わらず「メイン被写体に出来るだけ近づいて何を撮りたいのか(写真を見た人に何を伝えたいか)を明確にする」ことが基本だと思います。
一般的な50mmの撮影方法は…
- 1つの表現として、明確な被写体がある場合はF値を開放し被写体にピントを合わせ背景をぼかして浮き立たせる。
- 空間を撮りたい場合は、F値を絞って被写体深度を深くし空間全体を撮る
- 1つのドラマだけ撮らないで2つのドラマを画角に収まるように切り取る。
3番目は、例えば「真っ赤な傘を差したおばあちゃんと、地味な傘を差した娘さんがすれ違う瞬間を切り取る」と言えばなんとなくイメージ出来るでしょうか?
なかなかそんなシーンに出くわすことはありませんが、疲れたサラリーマンと元気な学生がすれ違う瞬間とかだったら待っていれば出くわすと思います。
この3つを考えて撮れば「作品らしく」撮ることが出来ると思います。
焦点距離35mmと50mmでは撮り方が違う
実は上で説明した50mmの撮り方は、昔 写真雑誌で読んだプロカメラマンが書いたことの受け売りなのです。
ではそのプロカメラマンは、35mmの撮り方をどう書いていたか?
当時その記事を読み、頭では理解しているつもりでしたが、本質的には理解が出来ていませんでした。
その証拠にその後35mmレンズで撮ってみましたが、つまらない写真を量産するだけでした。
そこで上で説明した焦点距離50mmと同じ撮り方で撮影をしてみました。
するとそれなりに質は上がったとは思いますが「どこか違う感」が拭えませんでした。
その時に分かったのは「やはり焦点距離35mmと50mmでは撮り方が違う」ということだけでした。
いまでも本質的には35mmの撮り方を理解出来ていないと思います。
なぜ焦点距離35mmは難しいのか?
35mmでのスナップ撮影は本当に難しいです。
理由はおおよそ理解出来ています。
見飽きた景色
焦点距離35mmレンズの説明でよく言われるように、35mmは人間が自然に見る時の画角(凝視の画角は50mm)と言われています。
つまり35mmレンズを付けてカメラのファインダーを覗くと、そこには見慣れた景色があるのです。
ここで「見慣れた景色」という言葉を変換すると「見飽きた景色」になるため、感動を得られにくいのだと思います。
ボケ量が少ない
ボケ量に関しては、35mmと50mmのレンズで比較すると開放F値が同じであれば50mmの方がよくボケます。
表現方法はボケがすべてではありませんが、重要な方法の1つだと思います。
広角レンズは被写界深度が深いためにボケ難いレンズで、そういった表現するのは得意としていません。
パースも効かせにくい
広角レンズはパースペクティブ(遠近法)を効かせることで印象的な画を撮ることを得意としています。
超広角レンズであれば、よりパースを効かせられ印象的な絵を得られることが出来ます。
しかし35mmレンズではそのパースが効かせ難いので、そういった表現も得意ではありません。
帯に短し襷(たすき)に長しというやつですね。
このように焦点距離35mmというのは、ボケ量もパースも弱く見飽きた画しか撮れないので、印象的な絵を撮りにくいのです。
35mmが使われる理由
とは言うものの、35mmは重宝される焦点距離です。
かつて一世を風靡し、現在その価値が見直されている、富士フイルムの名作「写ルンです」の画角は32mmと35mmに近いですし、フィルム時代のコンパクトカメラも焦点距離35mm前後のレンズが採用されていました。
また著名なカメラマンの名作と言われる写真は28~50mmの焦点距離で撮られた作品が多いのです。
そこで何故焦点距離35mmが重宝されるのかを考えてみました。
焦点距離35mmはその場の雰囲気を切り取る
写ルンですといえば、キャンプ,旅行といった各種イベントの際に大活躍するカメラというイメージがあります。
カメラの扱いに慣れていない人が簡単に素早くその場の雰囲気を切り取ることが出来ます。
プロカメラマンが数十万もする高級カメラで撮った作品を、数百円で買える写ルンですで撮ったキャンプの楽しい雰囲気を切り取った写真が凌駕することがあるのです。
実際に数十年前に写真雑誌で行われた写真コンテストで、2位はハイアマが高級一眼レフ+高級な望遠レンズで撮った風景写真、1位は主婦が32mmの写ルンですで撮った子供の驚いた表情の写真ということがありました。
このように35mmは上で書いた見飽きた景色と被写界深度の深さがあることで「変に絵作りをする必要が無く、その場の雰囲気を撮るのが得意な焦点距離」なのではないかと思います。
例えば赤ちゃんが初めて立ったその瞬間に「F2.0で背景をボケさせようかな? いや、パースを効かせて赤ちゃんをここに置く構図で」なんてしていたら、シャッターを切るときにはもう赤ちゃんは座ってしまった。
そんなことになりかねません。
でも35mmでしたら、細かな設定は無視をしてとにかくその瞬間を撮ることが出来ます。
その写真は赤ちゃんの人生の第一歩の記録,幸せな家族の瞬間という雰囲気を閉じ込めた1枚となるのではないかと思います。
これ以外にも…
- キャンプ中バカ騒ぎして楽しんでいる雰囲気を切り取る。
- 結婚式で花嫁のスピーチを聞きもらい泣きした友人を撮る。
- 卒業式で別れを惜しむ仲間の表情を切り取る。
- 孫を初めて抱いたおばあちゃんの嬉しそうな表情を撮る。
- 初デートで緊張している彼女を撮る。
こういった雰囲気を撮るのに35mmはむいているのではないかと思います。
「日常生活にそんな場面になかなか出くわさないよ!」
はい、おっしゃるとおりです。
でも日常で大なり小なり心が動く瞬間ってあるじゃないですか?
上で書いたプロカメラマンの言った「冷やし中華を始めました」という旗を見て「夏が来たんだな」と心が動く程度のことでしたら、誰にでもあると思います。
その心が動いた写真は、後に見返した時に心がホッコリ出来るのかもしれません。
もしかしたら35mmで撮った写真は、人に見せるための写真ではなく、自分が見返すための写真に向いているのかもしれません。
だから私は単焦点23mmのレンズを買った
最後の最後でようやく本題です。
私はいままでX-S10で使用するレンズとして、VoigtlanderのNOKTON 35mm F1.2,MACRO APO-ULTRON 35mm F2を使用していました。
いずれも35mm換算で50mmのレンズです。
そして今回新たにNOKTON 23mm F1.2を買いました(35mm換算35mm)
これは自分が苦手としている焦点距離35mmを克服するために購入しました。
なぜNOKTON 23mm F1.2を選んだかというと…
- 純正のXF23mm F2.0の描写が好きじゃなかった(売却済)
- 所有している2本のVoigtlanderの描写が好きだった。
- 自分の性格上AFのレンズだと雑に撮影してしまうと思った。
- X-S10にはコンパクトなレンズが似合うと思った。
- デカくて重いレンズは使いたくなかった。
こんなところです。
ということで次回はNOKTON 23mm F1.2のレビューと作例をお届けしたいと思っています。